■アニタス神戸イベントレポート

「アニタス神戸」イベントレポート
「関西発-アニメ文化の推進と観光化宣言」


レポーター:JAniCA応援団 藤中元博 (2010.3.22)


講演会


講師 遊佐かずしげ
「NHK時代劇『陽炎の辻』タイトル・アニメーションはこうして作られた」


  絵コンテ、原画、動画、背景、編集、撮影、3DCGまで手がけるクリエイター、 遊佐かずしげ氏による、映像をふんだんに使った講演でした。 講演慣れしておられるようで、面白く、わかりやすい講演でした。

『陽炎の辻』について

 『陽炎の辻』は2007年の第1弾〜2009年の第3弾、2009年と2010年のスペシャルと、全5本があり、 そのオープニングとエンディングを担当しました。 僕は『おかあさんといっしょ』『ピタゴラスイッチ』 などのショートアニメーションを多く作っています。 『陽炎の辻』の場合、ディレクター、プロデューサーとの打ち合わせの中で、 作品の世界観を崩さないように、また一番大事なのはスタッフロールなので、 それを邪魔しないようにということになりました。 世界観に合わせ、寝てばかりの猫のような主人公を、 猫のキャラクターで表現してみることにしました。

キャラクターについて

 猫のキャラクターを作るために、 池袋の「ねこぶくろ」 という店に取材に行きました。 今回は猫を後ろから追いかけていくようなアニメーションにしようと思い、 スタッフにお断りして、猫をストーカーのように(笑)後ろから撮影し、猫の生態を研究しました。 そのビデオを編集して、何十回も見て、猫のイメージを固めていきます。
 決定した猫は、普通の単色ではなく、江戸の雰囲気を出すために、和紙を貼っています。 絵を動かしたときに、テクスチャがパカパカならないように、 テクスチャの位置を全部調整していく膨大な作業が必要でした。 この作業は一気にやらないといけないので、作業中は電話にも出られません。
 また、背景も自分で描くので、 「深川江戸資料館」で、 取材しました。

絵コンテについて

 これは絵コンテの絵をそのまま映像にしたものです。 猫が昼寝していると、鶴が飛んできます。奥の方で花火が上がります。 これを作ってディレクターとプロデューサーに見てもらいます。 いきなり全部作ってしまうとやり直しになったら怖いので、これでイメージを伝えます。 次に、さらにそれのディテールを上げた映像を作りました。
 背景は3Dで動かしていますが、見ている人が気づくか気づかないか程度の隠し味にしています。
 絵コンテの段階では、最後、2匹の猫が別れ別れになっていたのですが、 NHKの方から2匹をくっつけてくださいと言われ、くっつけています。

 普通は、絵コンテマンと原画マンが別なので、「この絵コンテ誰が描いたの」とか 「原画マン誰よ」とか、文句が言えますが、僕の場合、全部自分なので、文句が言えません(笑)。 絵コンテを描くときは、覚悟を決めています。 その代わり、原画を描くときに絵コンテと演技を変えたりもできます。

続編について

 2作目のエンディングは1作目の最後のカットから続くように工夫しました。 2作目のラストのカットは、もうさすがに続編はないだろうということで、 江戸川を望むこれ以上ないエンディングにしましたが、また、続編が決定してしまいました(笑)。 苦労して考えた末、フレームアウトした猫が、長屋の階段を登るようにして、繋げました。 3作目の最後のカットは、1作目の最初に戻るようにしています。
 1作目で実はかなり無理をしてキャラクターに和紙を貼ったのですが、続編が決まって、 単色のキャラクターというわけにいかず、また、苦労して全部に和紙を貼っています。

 3作目は移動する猫を上からひたすら追いかけ、しかも背景で四季を表現しており、 かなり緻密な計算がされています。背景の原画は、僕の身長より長い絵になりました。

アニメーターになったきっかけ

 僕は東京生まれの東京育ちで、電車でちょっと行けば「タツノコプロ」が、 ちょっと足を伸ばせば『ルパン三世』を作ったプロダクションがあります。 僕が小学校4年生ぐらいのときに、お使いで家賃を払いに行ったときに、 そこに遊びに来ていた男の方が、目の前で『いなかっぺ大将』の「ニャンコ先生」を描いてくれました。 それに衝撃を受け、アニメの仕事があるんだということを知りました。 その男性は、今の「スタジオぴえろ」の社長、 布川さんという方でした。 今でも正月など実家に帰ったときには「あのとき布川さんにニャンコ先生を描いてもらわなかったら、 今の僕はなかったですよ」などと話をします。
 僕はラッキーにも東京生まれ、東京育ちで、アニメーターになりましたが、 そうでなければ、たぶんこの世界に入ってなかったと思います。 アニメの世界は東京と、一部大阪の一極集中です。 日本中の才能が地理的、経済的な問題でこの世界に入って来れないのは大変な損害です。 西日本からここに集まってアニメーターを目指す方を心から応援します。


アニメ上映会:巨神ゴーグ

 第1話、4話が上映されました。私にとっては本放送以来のゴーグで懐かしかったです。


見学会・アニメーター体験

 先週と同様、午前と午後の2部構成で、 「イングレッサ」による監修です。

 朝から順番待ちの方がおられ、すっかり人気のイベントでした。 今週は名古屋や滋賀からのご来場もありました。

 たくさんのゲストを迎え、派手な(?)イベントでしたが、 「アニタス神戸」 はまだまだスタートしたばかりで、ほとんどが新人の会社です。 作画チーフは「しばらくは人を育てながら、しっかり実績を作っていく。 企業のCMなんかを自社で制作できるようになるのはもう少し先」 と現場責任者として地道な活動の重要性を強調。
 スタッフロールで「アニタス神戸」 の名前を見るのを楽しみにしています!


熱心に取り組まれています


スタッフ用の研修教材は、徐々に本格的なものに


「モニターも来て、だんだん環境が整ってきた」と仕上げチーフ


これで4週間のイベントはすべて終了です
スタッフの皆様、お疲れ様でした