『アニメーター・演出のためのデジタルツール勉強会』(第2回)アフターレポート
去る4月13日(日)にワコム東京支社にて行われました、
『アニメーター・演出のためのデジタルツール勉強会』(第2回)の模様です。
まず、濱 雄紀 氏から旭プロダクションのデジタル作画の沿革がご紹介されました。
橋本航平 氏によるレイアウト/原画作業の実演をいただきました。
作業する手許もサブモニターで映し出されました。
鈴木理人 氏による動画作業の実演。
手際の良い作業に聴講者からどよめきが漏れる瞬間も。
後半は希望者参加の制作実習。
旭プロダクションのスタッフにサポートしていただきました。
別室に体験コーナーを設置。
メーカースタッフと直接情報交換される方も見受けられました。
■勉強会の概要
・旭プロダクションの紹介、講師紹介 (濱 雄紀 氏/約15分)
・原画セッション(橋本航平 氏/約1時間)
作品「ログ・ホライズン」を例に、レイアウト/原画作業の実演
使用ツール:Windows PC、
Cintiq13HD、
Logicool アドバンスゲームボード G13、
RETAS STUDIO STYLOS、
CLIP STUDIO PAINT PRO
・動画セッション(鈴木理人 氏/約1時間)
前セッションで作成した原画素材をもとに動画の中割り、チェック、書き出しの実演
使用ツール:Windows PC、
Cintiq13HD、
Razer Nostromo ゲーミング キーパッド、
RETAS STUDIO STYLOS
・使用機材の説明(濱 雄紀 氏/約15分)
・質疑応答(濱 雄紀 氏、橋本航平氏、鈴木理人 氏/約30分)
・制作実習(約60分)
実機を使用したデジタル作画の体験(サポート:旭プロダクション・スタッフ様)
■参加者
・希望者が多かったため、定員を拡大し、最終的な講座聴講者は39名でした。
・今回、旭プロダクション様のデジタル作画導入への企業ぐるみの取り組みが聞けるということで、
アニメーターだけでなく、制作やプロデューサーの方も多く参加されました。
・後半の制作実習へは、予定通り、定員10名が参加されました。
■勉強会の内容の一部紹介
〈原画セッション〉
・旭プロダクションで実際に制作された作品「ログ・ホライズン」の絵コンテから、1カットを選び出し、橋本氏の手で実際にレイアウトを描いて見せていただきました。
・まず STYLOS でラフを描きます。フリーハンドで描く様子は、紙にアナログの作画と変わりません。他の描画ツールと同様、絵の拡大や縮小の調整が便利ですが、STYLOSは作画に特化されているせいか、Photoshopなどに比べても、こうした操作を素早く行えます。
・描いたラフを、STYLOSからCLIP STUDIO PAINT PROに書き出して清書の作業を行いました。CLIP STUDIO PAINT PRO は、漫画/イラスト制作ツールですが、STYLOSより新しいため、新機能が充実しています。その1例として橋本氏がお勧めするのがパース定規です。消失点を設定すると、パースに沿った直線がフリーハンドで引けます。
・書き損じてもundo(アンドゥ)機能で手順を戻ることが出来ます。描き直しが容易です。
・スムーズな作業にはショートカットの利用が不可欠ですが、右手でペンを握ったまま左手のみで操作する必要があるため、液晶タブレット横の省スペースに置けるゲーム用のデバイスを旭プロダクションでは利用しています。橋本氏は Logicool アドバンスゲームボード G13 を、鈴木氏はRazer Nostromo ゲーミング キーパッドを使用しておられます。これらはショートカットの登録だけでなく、連続した操作を登録し、さらなる作業の省力化も可能だそうです。
・レイアウト作業の後半、動きのラフについては、再びSTYLOSにデータを移し作業を進めました。指パラに相当する「絵の送り」が必要なためです。
・作業途中のsave(保存)は停電などのトラブル時にデータを失わないために重要です。自動保存機能も利用できます。
・線の入りと抜きの太さを橋本氏は筆圧の加減でコントロールしています。橋本氏はこのアナログ感覚が捨てがたく、昔、板タブ(液晶無しのタブレット)でも作業していましたが、Cintiq(液タブ)を使ってみると、紙と変わらない、よりアナログに近い感覚があり、それ以来「板タブには戻れなくなった」のだそうです。
・原画作業は、引き続きSTYLOS上で進めます。ライトテーブル(複数の絵を透けさせる)機能を使い、レイアウト作業と同様に、アナログに近い感覚で作業を進められます。
・演出チェックや動画作業のために、プリントアウトしタップ貼りをします。タップ貼りの作業は面倒ですが、旭プロダクションの制作さんは作業に慣れており、苦情は聞こえてこないそうです。デジタル作画スタッフが増え、工程全体がデジタル化されれば、さらなる効率化も見込めます。
〈動画セッション〉
・STYLOSによるデジタル動画は、紙での動画より、仕上げとの関係が近くなります。旭プロダクションでは、仕上げ注意事項に従って、解像度(dpi)と画面サイズ(pixel)、カットフォルダ名を、そして、原画さんが作成したタイムシートをもとに、カットの秒数やセル重ねの数(レイヤー数)を設定し、カット袋の代わりになるカットフォルダを最初に作成します。入力フォームに数値を入れるとカットフォルダは自動で作成されます。
・STYLOS上でタイムシートを作成します。見た目はアナログのタイムシートと変わりませんが、原画シートを入力すれば、動画シートは自動で入力される機能があります。STYLOSのデジタル原画から動画を描く場合、原画シートをあらためて作成する手順も不要になります。・原画データをファイルプレビュー(指パラの代わり)し、カットの内容を確認した後、原画データを各レイヤータグに振り分け(セル分けし)、動画作業に進みます。紙の原画のスキャン時の位置のズレなども、この時点で調整可能です。
・原画トレス時の線の色(実線のブラックや、色トレス線の色)は、仕上げ注意事項の指示に合わせて決めます。
・鈴木氏は、原画トレスに曲線ツールを使っています。線の起点と終点を直線で結び、曲げたいところをドラッグ(つまんで引っ張るような操作)すると、綺麗なカーブを容易に作成できます。(この時の鈴木氏の手際の良さに、聴講者からは一瞬どよめきが起こりました)アナログの動画では、新人は必ず綺麗な線を引く練習が必要ですが、デジタル動画では、そのハードルが低くなると言えます。線の入りと抜きの太さを、鈴木氏はあらかじめ数値を設定することでコントロールしています。線を二本重ねることで、線の一部を太くするなどの工夫も出来ます。紙での作業では苦労するメガネの丸なども、円ツールで綺麗に作成されていました。
・びっしりと描き込まれたモブシーンなどでも、デジタル作画では、絵が汚れることがありません。
・完成した動画はファイルプレビュー(指パラの代わり)で動きを確認できます。
・ライトテーブル機能を利用して中割り作業を進めます。原トレした動画の線を薄くしたり、色を変えたりして透けさせます。タップ割りは手動で位置合わせして行います。回転、拡大、縮小、反転も可能です。中割りの動画をワンボタンで真ん中に位置合わせする機能もありますが、詰め割りや回転に対応していない点は、ツールの改良の余地を残していると言えます。
・ラフを描いて、清書する中割り(いわゆるデッサン割り)も、レイヤーを分けて下書きして、アナログと同様に進められます。助けに、キャラ表や資料写真を参考に重ねて利用することも出来ます。
・橋本氏はアナログ時代の経験が豊富なので、デジタルならではの曲線ツールなどは使わないそうです。デジタルと言えど、線の個性は出るので、味のある線を目指して努力して欲しいと、鈴木氏に先輩としてエールを送っていました。
・作業後、動画をファイルプレビューし、動きを容易にチェック出来ます。タイムシート通りのタイミングでの動きのプレビューも可能です。何段にもセル重ねした状態で綺麗にプレビュー出来るのは便利です。
・完成した動画は、仕上げ注意事項の指示に従って、線のアンチエイリアスを解き、Targa形式で書き出します。その際、線の太さを調整することも出来ます。
・鈴木氏には、仕上げ作業も実演していただきました。アナログをスキャンしたデータに比べると非常に綺麗です。線の途切れは格段に少なく、ゴミもありません。仕上げさんを膨大な線の補正やゴミ掃除から解放することが出来ます。
〈各セッションの合間に聞かれた余談〉
・STYLOSには直感的に使えるカメラワーク機能がない点に、改良の余地があるそうです。その点、同様のデジタル作画が可能なツール・Adobe Flash のカメラワーク機能は大変魅力があるそうですが、それを差し引いたとしても、日本アニメの聞き慣れた用語が使われているSTYLOSは、使い方が分かりやすいとのことです。(橋本氏)
・高価なツールにこだわるよりも、安価なツールを組み合わせて工夫する「運用スキル」の向上が、大人数でツールを使うアニメ会社では有利であろう、とのことです。(濱氏)
・STYLOSは、すべての工程をデジタルで作業する前提のツールなので、紙との併用ではロスが生じます。とくに、レイアウト、原画、動画の工程の他に、作監作業などのレイヤータグが足りない点に改良の余地がある、とのことです。(橋本氏)
〈その他、デジタル作画のメリットと課題〉
・動きのチェックに原撮や動撮が不要です。ファイルをネットワークで管理すれば、進行中の仕事の共有も容易で、地方のスタジオとの共有も可能です。
・3DCGとの親和性が高く、合成作業が容易です。
・ツールの習得にはある程度の時間と、ある程度のITリテラシーが必要です。
・デジタル作画はコピペが便利なため、画力が向上しにくいかも知れません。
・ソフトウェアは、まだ発展途上であると言えます。
・デジタル作画で仕事はもらえるのか?と不安もありますが、旭プロダクションのアニメーターがデジタル作画が原因で仕事を断られたことは、ほとんどないそうです。むしろ、デジタル作画は拡大傾向にある手応えを感じているそうです。
・機器を揃えるための、設備投資が必要ですが、近年かなり安くなっています。
(PC等込みの実勢価格で24、5万円前後。月額利用版ツールや、液晶なしの板タブレットで割り切れば、さらに安価にスモールスタートも可能、との詳しいお話もありました。)
■総括
・紙での作画を続けるのか、デジタル作画を導入するのかは、我々にとって悩ましい問題です。JAniCAとしてはあくまでニュートラルな立場で今回の講座を企画しましたが、予想以上に多くの参加希望者がありました。デジタル作画には、一長一短があるものの、ツールの真新しさや旭プロダクション様の興味深い取り組みに、参加者は大いに刺激を受けた様子でした。
・会社ぐるみでのデジタル導入に向けた方法の相談を、
直接ワコムさん、
セルシスさんと
交わす参加者もおられました。終了後の交流会でも、若手、ベテラン、メーカーさんの垣根無く、有意義な意見交換で大いに盛り上がりました。
■外部リンク
マイナビ ニュース
【レポート】JAniCAのアニメ業界向けデジタルツール勉強会 - 導入と機材の解説を紹介
【レポート】JAniCAのアニメ業界向けデジタルツール勉強会 - 原画・動画の実演を紹介
※参加したみなさんの感想(抜粋)
・旭プロダクションさんの現状でのデジタル作画がよくわかり、有意義でした。
・「デジタル作画→仕上げ」と「アナログ作画(スキャン)→仕上げ」の差がよく分かったのが良かったです。
・自分は下請けの作画スタジオで動画を担当しております。普段は鉛筆でアナログで作業しているので、デジタルの動画作業が衝撃的でした。RETAS STUDIOでの作業も見たことがなかったし、デジタル、アナログのデータの違いを見たこともなかったので、とても良い勉強の機会になりました。
・こういった交流の機会があって良かったです。
・大変面白かったです。カメラワークや長セルの時の原画の描き方も知りたかったです。
・デジタル作画について知識が深まりました。自分の仕事にも導入してみたいと思いました。
・4K動画に業界としてどういう風に対応していくのか、具体的な話はあったりするのか?
・実際に機器に触れるのは良いので、もっと長い時間があると良いと思いました。
・今回のワークショップのように、じっくりと教えてもらえるような講義があると良いと思います。
・とても参考になりました。私の持っている機材でデジタルに移行出来ると分かって良かったです。
・具体的な作業が見られて良かったです。問題点もいろいろ分かって良かったです。
・便利な機能があると思いました。
・ゼロからスタートの自分にはレベルが高いかな・・・と。
・私が15年前に東映アニメーション・タブレットルームで担当してたデジタル作画から、ほとんど進展が見られない。しかし、当時なかった CLIP STUDIO PAINT PRO の使い道は素晴らしかった。
・勉強になりました。参考にさせていただきます。
・デジタル作画の講座、またやって下さい。
・進行の方がなめらかで、とても聞きやすかったです。
・実際にされている作業が見られて、とてもためになりました。
・有意義な勉強をさせてもらったと感じました。ありがとうございました。
・作業風景が見られたのがとても良かったです。
・原画・動画を実際に作画されている方のノウハウが分かり、ためになりました。設備導入の際の予算も分かって良かったです。
・すごく役に立ちました。ありがとうございました! 動画→仕上げ→撮影の作業工程と制作の動きの参考にさせていただきます。
・昨年末、STYLOSを使った作業を始めたのですが、周囲に導入している人がいないため、他のソフトを含め、実作業されてる人の様子が見たかったので、とてもためになりました。特に、まだ移動、拡大縮小等で直感的な操作が出来ることを知って驚きました。疑問が解決して良かったです!
・とても興味深い内容でした。ありがとうございました。
・現場のスピード化に期待できました。
・色々な所で作業されている方には大変困難ですね。たとえば、ペンタブレットにすべてのユーザー情報を記録して持ち運びが出来るといいですね。
・また参加したいと思いました。
・とても分かりやすく、興味深い話が聞けて良かったです。ありがとうございました。
・おもしろかった。
・とても分かりやすかったです。
・CLIP STUDIO を発展させて行くことを望みます。
・デジタル作画とはいえ、アナログで作画技術を教える必要があることを再確認した。
・とても興味深かったです。レイアウト、原画では、アナログでやるより作業効率が良さそうな印象を受けました。
・デジタルツールはあまり関心が薄かったのですが、講義を聴いて、とても興味を持ちました。
・実践的だったと思いました。すぐ使えそうです。デジタル作画が普及するには、業界全体で対応していく必要があると感じますが、これも時代の流れで、そのうち主流になっていくのではないでしょうか。今回は作画の話でしたが、演出・作監がデジタルにどう対応していくかは興味のあるところです。
・アニメーターの実践のためには、今回の講義はとても良かったと思いました。が、作画がデジタル化したことによる影響、業界全体の話は、別であるといいかも知れません。(それは講義というより話合いか?)動画を曲線ツールで描いているところに驚きました。たしかに画力は上がらなそうです・・・。
・作業の方法やメリット、デメリットが分かってよかった。
・デジタル作画はまだ手を触れてない領域だったので、どんなモノか見てみようと思い受講しました。実作業はムリだろうと勝手に決めつけていましたが、自分にも出来そうな気がしてきました。分かりやすくとても良かったです。
・超アナログでやってきたので、完全移行するには怖さは正直あります。実作業は厳しいのではないかと思いました。が、アナログやりつつ、デジタル技術も学べれば、その分、仕事の幅も広がるのではないかと思います。確かにデジタルから入った人の画力の低下などは否めないと思いますが、そこを補うのは個人の資質なのかな。海外動画(伝送)がこれにより緩和されることを願います。