■フリーランスアニメーターの年金対策

フリーランスアニメーターの年金対策

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■フリーランスアニメーターの年金対策 7か条■
1.確定申告をする
2.国民年金を払う
3.付加年金(月400円)にも入る
4.毎月確実に払える金額で確定拠出年金に入る
5.国民年金の掛け金は2年前納して節約する
6.余った資金をNISA制度などを利用して資産運用する
7.国民年金を受け取るときは繰下げ受給を検討する


1.確定申告をする

 制作会社などから支払われた報酬は、報酬額から税金の前払いとして源泉徴収税(通常10.21%)が差し引かれた状態で支払われています。 収入などにもよりますが、多くの場合、適切に確定申告すればかなりの額の還付金を受け取ることができます。

 確定申告は、年金対策の第一歩。きちんと経費を計上、申告して、源泉徴収で余計に取られた報酬=お金を取り戻しましょう!

例:独身でフリーのアニメーターの場合(概算)
  年間売上200万円、経費50万円、各種控除50万円なら…
  課税対象所得は100万円となり所得税額は5万円のところ、
  源泉徴収額22万円なので、17万円が還付されます。

参考:「アニメ制作で働くフリーランスと税金のはなし」(pdf形式)
参考:国税庁 所得税(確定申告書等作成コーナー)


2.国民年金を支払う

 国民年金を支払えない場合は放って置かず、きちんと申請して猶予や免除してもらいましょう。
 独身一人暮らしの場合、所得が57万円以下だと全額免除になります。 なので確定申告の時にきちんと経費を計上して免除に該当する場合はちゃんと手続きを行いましょう。
 国民年金は将来的には厚生労働省の試算によると「上手くいっても2割減」「悪い場合でも3〜4割減」との予測が出ています。 しかし、国民年金の掛け金と同額の補助が国から(税金から)出ていたり、掛け金が全額控除になったりしてますので、 『滅茶苦茶お得』だったのが、『かなりお得』になるぐらいです。
 また国民年金には保険としての機能があります。後遺障害を負ってしまった時の障害基礎年金や、 18歳までの子供を残して死亡してしまった時の遺族基礎年金(配偶者に年781,000円、子供1人につき224,500円、 3人目以降、74,800円が加算されます)などです。これらのことから国民年金は相当お得な金融商品・制度となっています。
 国民年金を40年納付した場合2015年時点では年額780,100円(月額65,000円)になります。 未納分がある場合も、2018年9月までは特例で5年分さかのぼって支払うことが出来ます(通常遡れるのは2年分だけ)。 未納分がある人はお金がある時に出来るだけ未納分を埋めることをおすすめします。 また国民年金を支払った期間が40年に満たない場合、60歳から65歳までの間、 任意加入することによって受給額を増やすことが出来ます。 さらに受給資格期間を満たしていない方は70歳までの間加入することも可能です。

参考:国民年金機構「国民年金」
   各種手続きや保険料、免除・猶予・追納についての情報が得られます。


3.付加年金(月400円)にも入る

 国民年金にプラスする制度として、付加年金という制度があります。 国民年金の掛け金とは別に付加保険料月400円を一年間支払うと、 年金をもらうとき月額200円加算されます。従って、40年間支払えば月額8,000円加算されます。 40年間国民年金のみを支払って65歳から受給した場合と、付加年金も支払った場合を比べると、 支払額が約2.6%増えただけなのに、受給額は約12.6%も増えます。 またこちらの掛け金も所得から控除されます。
 弱点は『もらえる金額が決まっている制度』なので将来インフレが進行したら、 実質的な受給額が減少してしまうことです。逆にデフレになればさらにお得になります。 しかし、掛け金が月400円と少額ですし、現時点ではかなり効率よく受給額が増えます。 掛け金が控除になるので、所得税も(僅かですが)減らせます。 将来のことはわかりませんが、現時点ではものすごく有利な制度です。

参考:国民年金機構「付加保険料の納付のご案内」


4.毎月確実に払える金額で確定拠出年金に入る

 さらに国民年金にプラスする制度として、確定拠出年金があります。確定拠出年金には個人型と企業型の二種類がありますが、 フリーランスのアニメーターは個人型確定拠出年金に入ることになります。
 個人型確定拠出年金は自営業者の『厚生年金』であると言って良いかもしれません。愛称はiDeCo。 国民年金基金連合会が実施主体となっている個人年金ですが、運営は民間の銀行や証券会社に委託されています。 国民年金を払っていないと入ることは出来ません。毎月拠出する金額を決めてその資金の運用は自分で内容を決めて行う必要があります。 運用次第ですので、最終的にいくら受け取れるかは決まっていません。
 個人型確定拠出年金の拠出限度額は月68,000円(付加年金や国民年金基金の限度額と枠を共有)、 付加年金に入っていると限度額は67,600円ですが確定拠出年金の掛け金は千円単位なので実際は67,000円です。 掛け金は全額控除になります。
 掛け金が全額控除なので所得税が減ることになります。 また運用利益に関しても非課税です(通常20%です、雀の涙の普通預金の利息も20%取られてます)。 非常に有利な制度なので、お金がありさえすれば、入らない理由はないと思います。
 なお、それでもお金が余る人は小規模企業共済に入ることも検討した方がいいと思います。 小規模企業共済も掛け金が控除になる制度です(確定拠出年金とは枠が別、月額7万円まで)。 国が運営する自営業者向けの退職金制度と言えるものです。
 自営業者が国民年金に上乗せする制度として国民年金基金という制度もありますが、 現時点ではデフレのせいか非常に利回りが低いです(下手するとマイナスになる)。 なおかつ確定給付型の制度(『もらえる金額が決まっている制度』)ですので、 やはり下手するとインフレ率に負けて実質的な金額が減ってしまう可能性があります。 かつては良い利回りでしたので昔から入っている人は良いのですが、これから加入することはお勧めできません。
 付加年金と国民年金基金はどちらか一方にしか入れませんので、やはり付加年金+確定拠出年金をお勧めします。
 また民間の個人年金は手数料の高いものが多く、控除額も低いので(所得税で最大40,000円)こちらもあまりお勧めしません。
 確定拠出年金は60歳になるまで原則としてお金を下ろすことができません(死亡時には一時金として遺族に支払われる)。 非常に長期間の積立になるので、リスクをとって(最悪一年間で1/3程度が失われる可能性がある)、 利回りの高い(国債や定期預金などより年5%程度高い)運用をすることが有利です。具体的には株です。
 ただ株はリスクが高いので、リスクを分散させるため株式の平均値(インデックス、日本で言うと日経平均やTOPIX)に 投資信託(ファンド)の形で投資することをお勧めします。更に、日本だけではなく世界各国のインデックスに分散して投資すべきです。 具体的には為替リスクなどを考えて日本株50%海外先進国株50%で運用したり、 世界のGDP比率に合わせて日本株10%海外先進国株55%新興国株35%で運用したり、色々なやり方があります。 いずれにしろ大事なのは信託報酬などの手数料の安いインデックスファンドで全世界に分散させて積み立てることです。
 なおインフレに株は強いので付加年金がデフレで有利になるのとは逆の性質を持っています。 デフレ対策で付加年金、インフレ対策で確定拠出年金のインデックス投資です。 長期的な将来を予測することはなかなか難しいので、 インフレ・デフレどちらに転んでも大丈夫なように積立をするべきと思います。
 個人型確定拠出年金は加入時に国民年金基金連合会に2,777円、 開設後は事務委託先金融機関(信託銀行)に月額64円程度、 運営管理機関(銀行や証券会社)に月0〜700円程度の費用を支払う必要があります。 運営管理機関に支払う費用は会社ごとに違いますので、できるだけ手数料の安い会社を選びましょう。 基本的には大手のネット証券をお勧めします。
 確定拠出年金で以上のような運用をすればリスク・費用を出来るだけ抑えた上で、 節税効果もありますので比較的高い利回りで運用ができる可能性が高いです。 ちなみに大儲けはできません、地道に淡々と積み立てましょう

参考:厚生労働省「確定拠出年金制度」
参考:中小機構「小規模企業共済」


5.国民年金の掛け金は2年前納して節約する

 2年分を一括して前納すると377,310円(2016年4月時)もかかりますが月々払うより15,690円割引になります。 こちらの制度も活用して節約することをお勧めします。

参考:国民年金機構「国民年金保険料の「2年前納」制度」


6.余った資金をNISA制度などを利用して資産運用する

 税制的に確定拠出年金は非常に有利ですが一度入れると原則60歳にならないと引き出す事ができませんので、 使う可能性はあるけどリスクをとってもいいお金はNISA制度などを活用して、 全世界に分散してインデックス投資することをおすすめします。NISAは国民年金の支払の有無に影響を受けません。
 NISA制度とは年120万円を限度に5年間運用利益が非課税になる制度です。 国民年金や確定拠出年金のように投資したお金は控除になりませんが、それでも有利な制度です。

参考:政府広報オンライン「新しい投資優遇制度「NISA(ニーサ)」がスタート!」


7.国民年金を受け取るときは繰下げ受給を検討する

 国民年金は通常65歳から受け取り開始ですが一ヶ月遅らすごとに月額が0.7%増えます(最大70歳まで)。 70歳まで遅らすと月額が42%増えることになります。40年間国民年金を支払って70歳から受給にすれば月額約93,000円です。 付加年金も合わせて支払っていた場合は月額10万円を超えることになります。繰り下げ受給した場合は、 早死すると損、長生きすれば得になります。65歳から受給した時と70歳まで遅らした時を比較すると損益分岐点は81歳で、 82歳まで長生きすれば得になります。
 2015年の日本人の平均寿命は女性87.05歳、男性80.79歳なので、女性の場合は得な場合が多いと思います。 ただ男性も老後資金が充分でない場合は、長生きに対する保険料を支払ったと思って70歳まで働いて、 繰り下げ受給することを非常に強くおすすめします。60代のうちに頑張って働くことは可能な場合が多いと思いますが、 80代になってから、お金を増やそうと(働こうと)してもかなり難しいと思いますので、早めに手を打つべきです。
 ただし制度的な注意点があります。国民年金は受給開始手続きをしないともらえません。 なので、例えば72歳になってから手続きをすると70歳からの2年分をもらい損ねることになります。 必ず70歳の誕生月までに受給手続きをするよう、注意してください。

参考:国民年金機構「年金の繰上げ・繰下げ受給」



参考文献
大江英樹(2015)『老後貧乏は避けられる』文化出版局.
山崎元・大橋弘祐(2015)『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えて下さい!』文響社.
山崎元(2013)『全面改訂 超簡単 お金の運用術』(朝日新書)朝日新聞出版.